スゼ・ツン・レオンは、中国都市の解体と建設を遠景から記録した《History Images》、世界各地の地平線を同じ高さでつなぐ《Horizons》、高所から都市構造を読む《Cities》で知られる。8×10インチの大判カメラを使い、北京、重慶、ロサンゼルス、イスタンブール、砂漠、海岸までを同じ撮影規則の中へ置く。複数の写真を並べることで、歴史、都市化、地形の差が読み取れるよう、連作そのものを設計している。
レオンは、同じ撮影規則を世界各地へ反復し、隣り合う写真の差から都市化や土地の歴史を読ませる。《History Images》では遠景と細部、《Horizons》では一定の地平線、《Cities》では高所視点を繰り返す。8×10インチの大判カメラで道路、建築年代、洗濯物、人影まで残し、離れた土地を同じ尺度で見比べられる状態にする。大画面の細密さは、都市の規模を見せると同時に、場所ごとの差を読み取る比較材料になる。
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目次 · Table of Contents
建築・都市研究から得た「見る尺度」――高所・遠景・大判写真
レオンはメキシコシティ生まれで、現在の公式サイトではメキシコ、イギリス、アメリカの三つの国籍を持つビジュアル・アーティストと記している*1。カリフォルニア大学バークレー校とハーバード大学で建築・都市に関わる教育を受け、その経験は撮影の手順そのものに残っている。本人は《Cities》のインタビューで、新しい都市へ入ると、まず街路や建物の配置、自然地形、歴史の層を三次元で理解し、その複雑さと広がりを写真の二次元面へ翻訳すると説明している*15。高所を選ぶ理由についても、地図のように都市の配置を把握しながら、写真なら光、形、色、空間まで一緒に残せるからだと語る*15。北京大学で教える機会を得て中国に長期滞在したことは、2000年代初頭の急速な都市改造を継続的に観察する条件になった。Deutsche Börse Photography Foundationは、巨大集合住宅が歴史的な街区へ置き換わる変化を大判写真で記録した点を解説する*2。写真では、広い空間を一度に固定し、地図に近い俯瞰へ光、色、建材、生活の痕跡を重ねられる。鑑賞者は同じ画面を遠景と細部のあいだで何度も往復できる。
2000年代の中国都市化――一地点の劇的変化を、複数都市の反復で見る
《History Images》が始まった2002年前後、中国の大都市では旧市街の撤去と新しい住宅・商業地区の建設が同時進行していた。Storefront for Art and Architectureは、レオンがこの状況を都市の消去と新開発が同時に起こる空間として捉え、遠い位置から撮った大判カラー写真でニューヨーク個展を構成したと記録している*3。Steidlの写真集解説も、北京、上海、重慶、南京、平遥、厦門などを大判ビューカメラで撮影し、都市変化の巨大な規模と個人の小ささを一画面に共存させた点を強調する*4。複数都市で同じ距離感を反復することで、変化の共通点と差が横並びになる。MoMAが2006年の《Landscape: Recent Acquisitions》で中国都市の写真を同時代の風景表現とともに展示したことも、このシリーズが都市研究と風景写真の両方から読まれたことを示す*10。
《History Images》――帝政、社会主義、市場経済が一画面に残る
《History Images》では、都市の一地点に残る複数時代の建築が同じフレームへ入る。Yossi Miloの2006年展資料は、《Xinjiekou, Xuanwu District, Nanjing》で帝政期の家屋跡、部分的に解体された社会主義期の住宅、新しい市場経済期の高層建築が前景・中景・遠景に地層のように重なると説明する*11。SFMOMA所蔵の《Yihaoqiao, Yuzhong District, Chongqing》では、広い画面の隅々に建設と解体の痕跡が残る*7。《Tiananmen, Dongcheng District, Beijing》では天安門周辺を都市構造の一部として捉え、記念碑、道路、建物の距離関係まで写し込む*8。Photography of Chinaは連作全体を、古い歴史が消える過程と新しい歴史が作られる過程を同時に記録した仕事として整理している*19。一枚の中に複数の時代が物理的に同居することが、このシリーズの時間表現になっている。
なぜ大判カメラと遠景なのか――都市全体と洗濯物を同じネガに残す
遠景と8×10インチの大判カメラを組み合わせると、都市の全体像と細部を同じ写真の中に残せる。Steidlは《History Images》を、都市変化の巨大な規模と個人の微小な規模が同時に読める高密度な像として説明している*4。MoMA所蔵の《Pingyao, Shanxi Province》では、歴史都市の屋根、道路、遠景の建設物が一つの面として連続する*9。Museum of Fine Arts, Houstonは《Xinjiekou, Xuanwu District, Nanjing》について、帝政期の家屋跡、部分的に解体された社会主義期の集合住宅、市場経済期の新しい塔が地質の層のように重なる画面だと解説している*18。遠景の中にも洗濯物、窓、仮設建築、人影が残り、都市を作る制度の規模と個々の生活の大きさを同じネガで比べられる。
《Horizons》――地平線を同じ高さに置き、遠い土地を隣り合わせる
《Horizons》は2001年から続くプロジェクトで、自然景観、都市、海、砂漠、氷河を撮りながら、地平線の位置を画面内でほぼ一定に揃える。The New Yorkerは、8×10インチのビューカメラを用い、三次元空間が二次元の写真へ変換されるときの基準線として地平線を扱う方法を紹介している*13。National Galleries of Scotland所蔵の《Amman》(2007)は、共通の地平線によって各写真を連結し、順序を組み替えられるシリーズとして解説されている*26。Polka Galerieの作品ページでは、メキシコシティ、カイロ、ベナレス、リスボン、東京、内モンゴルなど、地理も用途も異なる場所が同じ水平線で連結されること、主に8×10インチのカメラとアナログのクロモジェニック・プリントが使われることが確認できる*22。同じ高さの線に道路、氷山、工業地帯、住宅地、海岸が並ぶと、地形、建築、空気、光の差が明確になる。写真の順序を入れ替えられる構造まで含め、地理的に離れた場所が一本の水平線で隣接する。
《Cities》――高所から都市の区画と生活の細部を一緒に読む
《Cities》では世界各地の都市を高所から撮り、道路、街区、住宅地、工業地帯といった大きな区画を見せながら、洗濯物、配達、落書き、人の動きまで残す。TIMEは、都市計画の幾何学的なパターンと日常生活の細部が同じ画面で読める点をシリーズの特徴として紹介した*14。The Morning Newsのインタビューでも、都市を一つの全体として見渡しながら、その内部の生活まで近づいて読める距離を探したことが語られている*15。The Met所蔵の《Luohu District, Shenzhen》(2008)は、深圳の都市景観を大型クロモジェニック・プリントとして収蔵している*21。同館の《La Paz》(2010)まで並べると、異なる大陸の都市を同じ撮影・プリントの尺度で比較するシリーズの広がりが具体的に分かる*20。都市名は作品タイトルに残り、比較のルールが強くても各地点の固有性は消えない。
連作で読む――写真の順序そのものが比較を作る
レオンの三つの主要シリーズでは、反復と並置が作品の読み方を決める。《Horizons》では地平線の高さ、《Cities》では高所視点、《History Images》では遠景と高密度な細部という規則が、場所が変わっても維持される。Collector Dailyは《Horizons》の展示について、空と地面の比率がほぼ一定の写真を並べることで、各景観が共通フォーマットの「単位」のように見え、その内部差が強く意識されると評した*16。Hatje Cantzの写真集《Horizons》は、共通の水平線を軸にページを連続させる*6。Steidlの《History Images》も、中国の複数都市を一冊の編集単位としてまとめる*5。展示と写真集は、異なる場所のあいだに比較を発生させるための構成そのものになっている。
なぜ写真なのか――地図の俯瞰と、現場の光・細部を一枚に重ねる
レオン本人の説明では、都市撮影は「三次元の街をどう二次元へ翻訳するか」という課題から始まる。高所からの画面は地図に近い情報量を持ちながら、道路の色、建物の素材、光の方向、人の動きといった現場の知覚も残す*15。この二重性が、建築図面や都市統計とは異なる情報を写真へ与える。《History Images》では建物の高さ、街区の密度、遠近の重なりが都市史の層として一度に読め、《Cities》ではゾーニングと日常生活の細部が同じ画面に存在する。2018年のローマ賞プロジェクトでも本人は、普段の街路視点から離れた高所を選び、環境全体を見渡して、自分たちが大きな世界のどこにいるかを捉えたいと述べている*25。写真では、広い空間を一度に固定し、地図に近い俯瞰へ光、色、建材、生活の痕跡を重ねられる。鑑賞者は遠景と細部のあいだを自分の速度で往復する。
共通フォーマットで近づく都市――差は建築・植生・生活の細部に残る
レオンの連作では、同じルールが異なる場所を似た構造に見せる。《Horizons》では地平線が同じ位置を通り、《Cities》では高所から街区が幾何学的なパターンとして見える。一方、各作品には地名がタイトルとして残り、道路の素材、建築の年代、光、植生、看板、人の行動が細部として記録される。Collector Dailyは、共通フォーマットによって景観同士が交換可能に見える瞬間と、細部の差が強く現れる瞬間の両方を指摘した*16。Princeton University Art Museum所蔵の《Jiangsheng Cun, Shanxi Province》も、地名、2004年という制作年、プリント技法を明記した具体的な地点として保存されている*17。共通フォーマットで近づいた場所同士は、細部を追うほど建築年代、植生、看板、人の行動の差が現れる。
New Topographics、グルスキー以後――大判写真を「都市間比較」に使う
レオンの大判カラー写真は、人為的な景観を分析する1970年代以降の風景写真と、1990年代に美術館の壁面を占めるようになった巨大カラー写真の双方を背景に読むことができる。1975年の《New Topographics》は、崇高な自然景観から工業地帯、郊外、日常的な人工景観へ視線を向け、コンセプチュアル・アートやミニマリズムの影響を写真へ持ち込んだ展覧会としてSFMOMAに位置づけられている*23。The Metはアンドレアス・グルスキーとトーマス・ストルートについて、大型で技術的に精密かつグローバルな社会空間を撮る点を共通項として挙げている*24。レオンも都市、開発、世界規模の移動を大画面で扱うが、《Horizons》では地平線の高さ、《Cities》では高所視点、《History Images》では遠景と細部の密度という撮影規則を複数地点へ繰り返す。Yossi Miloの《Cities》資料は、一定した視点、構図、記述性が、異なる都市の社会的・歴史的構造の共通点と差を前景化すると説明する*12。レオンの大判写真では、画面の細密さが一地点のスケールを伝えると同時に、同じ規則で撮られた別都市との比較材料にもなる。都市の差は、建築の年代、街区の密度、生活の痕跡として読まれる。
- アンドレアス・グルスキー ― 高所視点と大画面でグローバルな空間を読む比較対象。レオンでは連作間の共通ルールが強く働く