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PHOTOGRAPHERS/JOHN RIDDY ·ニュー・トポグラフィックス ·UPDATED 2026.08
JR
§ 175 — Photographer Index — ニュー・トポグラフィックス

ジョン・リディ

John Riddy
Countryイギリス Period1980–1990s Channelイメージを疑う · CONCEPTUAL
Abstract

ジョン・リディは、ロンドンの街路と建築、パレルモ、ノーフォークの海岸、空だけを撮った連作などを制作してきたイギリスの写真家。《Low Relief》《Palermo》《Horizon》《Sky》では、夜間撮影、カラーから白黒への変更、同一点からの反復撮影など、場所ごとに方法を選んでいる。絵画出身の経歴、大判カメラの使用、シリーズ単位の制作と出版をたどる。

この写真家が変えたこと

ベッヒャー夫妻のタイポロジーや《New Topographics》では、一定の撮影規則や抑制された画面が、複数の建築・風景を比較する基盤になった。リディの写真は外見上そこへ近いが、本人は一つの規則に場所を合わせない。《Palermo》では三年ほど通う途中でカラーから白黒へ変え、《Horizon》では同一点を二年間撮り、《Sky》では建築そのものを画面から外した。先に様式を決めて都市を当てはめるのではなく、その場所を何として見たいのかに応じて、色、視点、撮影期間を毎回決め直す。都市写真の「客観的に見える様式」を固定せず、撮影条件そのものを場所ごとに変える方法を続けている。

Keywords 建築写真 都市風景 Low Relief Palermo Sky Horizon 連作 大判プリント
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 04 背景と時代

絵画から写真へ――「無から作る」より、すでにある場所を選ぶ

リディは十代から撮影とプリントを始め、チェルシー・スクール・オブ・アートでは絵画を学んだ。本人は、卒業後に空白のキャンバスから制作することへ馴染めず、すでに存在する物や場所を使う方が自分に合っていたと振り返っている*24。その後、アンソニー・カロら彫刻家のスタジオで作品撮影を行い、大判カメラを日常的に使う仕事が自分の写真を育てる実地教育になったと説明している*1。Frith Street Galleryの作家ページにも、絵画教育から写真へ進み、建築と場所を長期に撮り続けた経歴がまとめられている*22。リディが写真へ進んだ理由は、場所への関心だけでは説明できない。リディにとってカメラは、白紙から像を構想する代わりに、現にある建物や街路へ立ち、視点とフレームを選んだ後も、光、汚れ、看板、通行物など自分が作っていない細部を画面へ受け入れられる媒体だった。

1990年代の都市写真――事件から離れた「記述」を選ぶ

1990年代のリディは、建物や街路をシリーズ単位で撮り始めた。Government Art Collectionは、彼の実践を建築、都市、場所への持続的な関心として整理している*2。《London (Marylebone Road)》は撮影した道路名をそのまま作品名に残している*3。《London (Garrick Street)》も同様に具体的な通りを一作ずつ区別して扱う*4。後年の本人は、こうした仕事を「storytelling」より「description」と呼び、物語を設定して都市を説明するより、現地で何を選び、どこにカメラを置いたかを写真に残す方法だと説明している*24。Government Art Collection所蔵の《Muizenberg》も、ロンドンとは別の都市を固有名のまま扱う初期作である*5

§ 02 / 04 表現の核心

連作――撮った瞬間ではなく、比較してから残す写真を決める

リディはArtdocのインタビューで、「決定的瞬間」は自分の出発点ではなく、判断は時間をかけて行うと説明している*24。《Sky 14 (Camberwell)》のような《Sky》連作では、空を番号付きの複数作品として残し、雲量や色の差を一枚の劇的な瞬間へ集約しない*6。本人は同じインタビューで、プリントを場所を記述する窓であると同時に、色、階調、構図を持つ物理的な面として成立させたいと話している*24。マイケル・フリードも、一枚だけを切り離すより、複数のプリントを見比べると構図や明暗の違いが明確になる点からリディの仕事を論じている*23。連作が必要なのは、撮影時の一回の判断を「正解」にしないためである。同じ場所や主題から複数の像を作り、プリントになった後で差を比較し、最終的に残す写真を決める。撮影より後ろに判断の時間を確保することが、物語を先に決めず場所を記述する彼の方法と一致している。

ル・グレイ、北斎、ラスキン――シリーズごとに別の過去を参照する

リディはシリーズごとに別の過去作品を参照している。1994年の展覧会では19世紀フランス写真や20世紀アメリカ写真との関係が示され、後の仕事ではジョン・ラスキンの自伝、北斎の木版画、ギュスターヴ・ル・グレイの写真がそれぞれ具体的な出発点になった*7。本人は初期にデュッセルドルフ学派を知らず、建築写真ではヴェルナー・マンツやエズラ・ストーラーを見ており、ベッヒャー夫妻、トーマス・シュトルート、アンドレアス・グルスキーとの類似は後から気づいたと説明している*24。過去の作品の参照は、画面を古典的に見せる装飾として置かれているわけではない。《Palermo》でル・グレイを参照したように、特定の場所を以前の写真家がどう切り取ったかを手掛かりに、現在の同じ都市を別の条件で撮り直すために使われる。 1996年のFrith Street Gallery展では、ピレネーの道路脇のカフェ、チュニジアの精神病院、使われなくなったバレンシアの港湾建築など、場所ごとに光と内部空間が異なる作品が並び、《Valencia (Port)》には閉鎖された港湾建築、古びた壁画、Benetton広告、共和派の落書きが同じ画面に入っていた*8

《Ideal World》――近代建築の理想を、風化した現在から見る

《Ideal World》は、近代建築が掲げた合理性や理想形を、使用後の汚れや風化まで含む現在の姿から見るシリーズである。2000年の展覧会テキストは、ル・コルビュジエを含むモダニズム建築のユートピア的理念と、その後に生じた風化や時間のずれを作品の中心に置いている*9。《Recent Places》でも、個別の建物と周辺環境が現在どう見えているかを撮っている*10。完成直後の建築写真が消しやすい汚れ、補修、植栽、周辺の変化まで画面に残すことで、設計時の理念と使用後の建物を同じ写真の中で比較できるようにしている。

§ 03 / 04 代表作・方法・媒体

《Sky》《Low Relief》――空と夜のロンドンを比較して見る

《Sky》では空を反復し、《Low Relief》ではロンドンの建物を夜間や薄い光の下で撮る。フリス・ストリートの《Skies》展は、わずかな気象差と光量の違いを番号付きの写真として見せ、空を「背景」から比較の対象へ変えた*11。《Low Relief》は、ロンドンの建築を低い照度の中で平面的に立ち上げ、都市の名所性よりファサードの細部と人工光の分布を見せるシリーズとして提示された*12。大判カメラの細部描写は、《Sky》では雲量と色の差、《Low Relief》では窓、壁面、人工光の差を一枚ずつ比較するために使われている。

《Palermo》――ル・グレイを手掛かりに三年間同じ都市へ戻る

《Palermo》では、一度の旅行で都市像を決めず、三年ほどにわたってパレルモへ戻りながら制作した。展覧会資料はギュスターヴ・ル・グレイの1860年のパレルモ写真を参照点に挙げ、歴史的都市の建築、海、光を現在の写真へ置き直す仕事として紹介している*13。Guardianのエイドリアン・サールは、細部を途方もなく記録する写真だからこそ、同じ通りでもゴミ、落書き、車、灯りが日ごとに変わり、「なぜこの日なのか」という問題が残ると論じた*25。リディ自身は色が強すぎると場所の別の性質を塞ぐと考え、このシリーズでは白黒へ切り替えたと説明している*24。《Half-light》でも明暗が切り替わる時間帯を使い、写真の記述を「明るく明瞭に見せること」から切り離している*14。《Palermo》で時間を作るのは長時間露光ではなく、三年間の再訪と編集の反復である。

《Horizon》――同じ一点から二年間、九枚を作る

《Horizon》は、ノーフォークのBlakeney Pointを一つの固定した視点から二年間撮影し、九枚の写真に絞ったシリーズである*15。リディはこの土地を1990年代初頭から30年以上訪れていたが、作品として撮影したのはこのシリーズが初めてだったと話している*1。画面は前景の塩湿地、砂礫の稜線、Watch House、空というほぼ同じ構成を保ち、季節、雲、光だけが変わる。二年間に同じカメラ位置を反復し、その候補から九枚だけを最終作にしたという撮影と選択の手順自体が、《Horizon》を一回の訪問で作る風景写真から区別している。

§ 04 / 04 批評と写真史上の位置

写真集と展示――連作を「読む順序」にする

リディは都市や主題ごとに連作をまとめ、それを展覧会だけでなく写真集としても発表してきた。Frith Street Galleryの『John Riddy: Photographs』は複数の都市・風景シリーズを一冊に収録している*17。Steidl版『Photographs』も長期にわたる作品をまとめ、建築、空、風景のシリーズを同じ出版物で比較できる構成を取る*18。Lawrence Markeyの略歴からも、1990年代以後の展示がシリーズ名を単位に継続してきたことが確認できる*19。同ギャラリーの出版記録には『Rome』(1999)、『8 SKIES』(2004)、『Views from Shin-Fuji』(2010)、『Palermo』(2013)が並び、都市やシリーズごとに別の本が作られている*20。2015年のFrieze評は、南アフリカのCape Peninsulaを撮った作品をJames Castleのドローイングと並置した展覧会を取り上げ、荒れた植生や柵など画面内の具体的な形を比較している*21

ベッヒャー派と似て見えても、撮影規則を固定しない

リディの正面性、大判カメラ、人物の少ない都市景観は、ベッヒャー夫妻やデュッセルドルフ学派、ニュー・トポグラフィックスと外見上よく似る。本人は、ヴェルナー・マンツやエズラ・ストーラーなどの建築写真、さらに絵画と彫刻を出発点にし、ベッヒャー派とは「似た場所へ別の経路で来た」と述べている*24。しかもベッヒャー夫妻のタイポロジーのように一つの撮影規則を全シリーズへ適用しない。《Palermo》では青空や黄土色が強すぎて他の要素を塞ぐと判断してカラーから白黒へ変え、《Horizon》では同一点を反復し、《Sky》では建築自体を画面から外す*24。De Pont Museumの所蔵ページにも、《Palermo》6点、《New York (Black Star)》5点、《London (Rail Sidings Road 1 and 2)》が同じ作家項目に並び、都市ごとに別のシリーズを作ってきたことが確認できる*26さらに2026年の《Winter Landscape》では、従来の人物を避けた都市景観から離れ、ときに手持ちのカメラで撮影し、人、群衆、日常的な活動を画面へ戻している*16同じ作家の内部でも撮影機材と人物の扱いを変えているため、「静かな大判都市写真」という一つの様式で全期間を説明することはできない。

§ REL 関連する写真家・運動
Photographers
  • 畠山直哉 ― 都市・建築を長期的な観察から捉える比較対象。リディでは歴史的参照とプリントの微差がより前景化する。
Movements / Contexts
  • ニュー・トポグラフィックス ― 人工景観を抑制された記述で扱う先行文脈。リディはその中立性をそのまま継承せず、美術史的記憶を連作へ持ち込む。
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