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PHOTOGRAPHERS/J. H. ENGSTRÖM ·インティメイト・ライフ ·UPDATED 2026.08
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§ 216 — Photographer Index — インティメイト・ライフ

J・H・エングストローム

J. H. Engström
Countryスウェーデン Period1990–2000s Channelイメージを疑う · CONCEPTUAL
Abstract

J・H・エングストロームは、友人の裸身、部屋、窓、路上、パリ、故郷ヴェルムランドを、大判カメラと手持ちのスナップ、カラーと白黒で往復する。《Trying to Dance》《From Back Home》《Tout Va Bien》では、近づく写真と離れる写真、静止と移動、都市と田舎の速度差がページのリズムになる。写真集では、撮影時には別々だった断片が後から隣り合い、経験の意味がページごとに更新される。

この写真家が変えたこと

エングストロームは、日々目にしたものを身体の反応ごと残すために写真を使い、その断片を写真集で別の時間へ組み直す。大判で相手と向き合う長い時間、手持ちで街を抜ける速度、カラー、白黒、空撮、露光の揺れを同じ本へ入れると、パリとヴェルムランド、現在と記憶が互いに割り込む。本人が重視するのは一つの作風への統一より、何を表したいかに応じて方法を選ぶことにある。《Trying to Dance》以後の写真集は、その異なる時間と感情をページの順序で経験させる制作の中心になった。

Keywords Trying to Dance Tout Va Bien From Back Home 写真集 自伝的写真 ヴェルムランド
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 04 背景と時代

パリとヴェルムランド ― 二つの速度のあいだで撮る

エングストロームはスウェーデンのヴェルムランドに生まれ、10歳でパリへ移り、13歳でスウェーデンへ戻った後も青年期を二つの土地のあいだで過ごした。Steidlの略歴は、1991年にパリへ戻ってマリオ・テスティーノの助手となり、1993年にはストックホルムでアンダース・ペーターセンの助手を務め、1997年にヨーテボリ大学の写真・映画科を卒業した流れを記している*23。都市と農村、ファッション撮影の制御された現場と、被写体へ近づくドキュメンタリーの現場を若い時期に行き来した経歴は、後の作品に複数の撮影速度が共存する背景を考えるうえで重要である。

本人は自分の方法を「diaristic」と呼び、日々見ているものが自分にとって真実だから、それを写真の物語として使うと説明している*3。写真は、特別な事件を探すための媒体より、目の前の小さな出来事をその時の距離と感情のまま保存できる道具として彼の生活へ入っている。後に古いネガを再編集できることまで含めると、撮影時の現在と、編集時の現在を何度も接続できる点が写真を選び続ける理由として見えてくる。

Foamの「Close Surrounding」は、パリとヴェルムランドの往復を、人間の孤独や存在の不安を探る制作の背景として扱った*16。Sleekも《From Back Home》を、幼少期を過ごした土地への帰還として紹介し、故郷を安定した起源として置くより、戻るたびに距離を測り直す場所として写すことを示している*17

アンダース・ペーターセンから学んだ「近づく」こと

1991年のマリオ・テスティーノ、1993年のアンダース・ペーターセンという二つの助手経験は、エングストロームの形成期に異なる写真の現場が連続していたことを示す*23。ペーターセンとの関係はその後も続き、ヴェルムランドを二人で撮る《From Back Home》へ発展した*11。ここで重要なのは一人の師から単一の様式を受け継いだという説明より、被写体へ近づく撮影と、構成を管理する撮影の両方を経験した写真家が、後にカメラや距離の序列を外していったことにある。

エングストロームは、ペーターセンから学んだ被写体への近さを、人物以外の断片にも同じ強度で向けた。人物の顔と同じ重さで、窓、道路、空、部屋、植物、光の失敗のような像が置かれる。FKの長いインタビューでは、彼自身が写真を自分の周囲と接触する方法として語り、完結した物語よりも、撮る行為そのものが生の強度に結びついていることを強調している*10

§ 02 / 04 表現の核心

《Trying to Dance》― 時系列を外し、撮影距離を往復させる

Trying to Dance》には、自画像、恋人や友人、風景、静物、スナップが、カラーと白黒をまたいで現れる。公式サイトの《Trying to Dance》ページでは、多数の写真を一つのプロジェクトとして連続表示し、エングストローム自身の「presence」をめぐる短い言葉を添えている*15。ここでは一枚ずつの完成度を揃えることより、ページをめくったときに像の温度が変わることが重要になる。

American Suburb Xのインタビューで本人は、自分の仕事を「人生を順番に説明する自伝」とは区別し、自伝的な方法だと語っている*3。写真は「私はこう生きた」という証拠の列より、その時々の私的な反応が周囲へ触れた痕跡として連なる。この違いが、ブレ、粒子、過剰露光、ポラロイド、大判写真を一つの本の中で共存させる根拠になる。

大判・スナップ・空撮を一冊で切り替える

Leicaのインタビューでエングストロームは、直感的な撮影から計画的な撮影までのあいだに序列を置かず、カラー、白黒、シャープネス、ぼけ、大判、使い捨てカメラ、8mmなどを「何を、なぜ表したいか」に応じて選ぶと語っている*1。したがって《Trying to Dance》に見える画質の差は、撮影対象と自分の距離、その瞬間のエネルギーに合わせて方法を選び直した結果である。大判の静かな肖像と手持ちの速い像が隣り合うと、一冊の内部で身体の速度まで切り替わる。

Apertureのワークショップ紹介も、彼の実践を、生活の近さと写真の直感的な使い方を重視するものとして伝えている*6。この不統一には、編集上の明確な意志がある。何を撮っても同じ作家らしい見た目になることを避けることで、被写体との距離が毎回変わる状態を残している。

写真集を「最終形」にする ― ページ間で意味が生まれる

エングストロームは写真集を「究極の写真表現」と位置づけ、高品質な印刷と紙の触覚まで写真の表現に含めている*1。さらに彼は、1990年代半ばに最初の本を出した頃には現在のような写真集ブームがなく、その後写真集が一つの芸術形式として急速に存在感を増したと振り返る*1。単写真を壁へ固定するより、ページ間のリズム、前後の像、紙をめくる身体の時間を使えることが、彼の異質な写真群を一つの作品へする条件になった。

LFIは、彼が写真集ブーム以前の1990年代から制作を出版形式へ向けており、単写真の集積を「visual poetry」と呼ぶ編集によって結ぶと説明している*13。隣り合う写真は説明関係より連想関係を生み、読者が二枚の間を補う。その余白によって、写真集そのものが作品の形式になる。

§ 03 / 04 代表作・方法・媒体

《From Back Home》― 故郷を二人で撮ると何が変わるか

From Back Home》は、エングストロームとアンダース・ペーターセンが2001年から約7年かけてヴェルムランドを撮った共同制作である。National Science and Media Museumは、両者が形成期を過ごした地域を、人と場所への再発見の旅として紹介している*8。同じ土地を二人の写真家が撮ることで、「故郷」は一人の記憶が所有する風景から、複数の距離が重なる場所へ変わる。

LensCultureの紹介は、両者の異なる写真言語が一冊の中で並び、それでも人物や土地への関心によってつながる点を示している*9。この共同制作では、自伝的方法が一人称の告白から離れ、二人が同じ土地へ持つ異なる距離を一冊に重ねる。

《Sketch of Paris》― パリを20年の生活時間として編集する

《Sketch of Paris》は1991年から2012年までに撮られた写真を再編集し、街路、裸体、友人、室内、恋愛の痕跡を一冊へ重ねた。本人はAからBへ進む物語を考えず、記憶が混ざる状態を出発点にしたと説明し、パリで「芸術を仕事にできる」世界を知ったことを自身の制作の始まりと結びつけている*24。同じインタビューで、展覧会の形式から得られる自由が写真集という媒体に合っているとも語っており、都市を説明する本より、二十年の個人的な時間が同時に現れる本として構成されている。

Akio Nagasawa Galleryの作家紹介でも、パリとスウェーデンをまたぐ活動と多数の写真集が、彼の制作の中心として整理されている*7。撮影地が変わっても、長期間の断片を本の中で再遭遇させ、都市を生活時間の集積として見せる方法が続いている。

《Tout Va Bien》― 題名と画像の不一致を保つ

Tout Va Bien》は、肖像、風景、出産、身体、動物、暗い室内など、主題も技法も離れた写真が並ぶ。Leica Oskar Barnack Awardは、自伝的要素、身体、風景、誕生、動物などが単一テーマへ収束する構成より、複数の経験が併存するシリーズとして評価した*12。題名の「すべてうまくいく」と、画面に現れる不安や生々しさの距離が、本全体に緊張を残す。

Leica Camera Blogは、完成までに多数のダミーを作り、編集を繰り返した制作過程を紹介している*14。一見即興的な本ほど、最終的な順序は長い試行の結果である。公式プロジェクトページでも、個々の像の異質さを保ったままシリーズとして提示されている*5

《Revoir》― 古いネガを現在から読み直す

《Revoir》では、《Trying to Dance》前後の時期へ戻り、未発表写真を含む古いネガを新たにスキャンして編集した。出版社紹介は、過去の復元よりも、現在の自分の判断でプリントと順序を作り直すことに重点を置いた本だと説明している*18。古いネガは、時間の経過によって意味を変え、現在の編集から読み直される素材になる。

Fondation Henri Cartier-Bressonは2025年、《DIMMA / BRUME / MIST》を35年の仕事をたどる写真集として取り上げ、画像選択、レイアウト、シークエンスを考える写真集企画の中でエングストローム本人を招いている*2

§ 04 / 04 写真集文化の中での評価

カミュと「疑い」― 私生活の写真を実存の問題へつなぐ

エングストロームは若い頃にカミュの『シーシュポスの神話』から強い影響を受けたと語り、世界を完全には理解できないという感覚、自分の中と外に同時にある像、制作を駆動する「疑い」について繰り返し話している*25。そのため、家族、裸体、食卓、森、傷、子どもといった私的な被写体は、告白の量を競う素材より、生、死、時間、帰属を一つの説明へ固定しないための断片として働く。同じインタビューで本人が、粗さよりも「fragility」が重要で、エネルギーの移行が不確かさを生むことを評価している点も、この写真観をよく示している*25

Foamが彼の仕事を人間の孤独や不条理への問いとして読むのは、写真が私生活の資料を超え、見る者自身の経験へ開かれる余地があるからである*16。特定の出来事を知らなくても、ページ間の距離、身体への近さ、突然の空白から感情の運動を読むことができる。

《Trying to Dance》以後 ― 写真集文化で評価された編集

《Trying to Dance》が2005年のDeutsche Börse Photography Prize候補となり、《From Back Home》がアルルの写真集賞、《Tout Va Bien》がLeica Oskar Barnack Awardを得た経歴は、エングストロームの評価が単写真の強さと同じ程度に、編集・出版の仕事へ向けられてきたことを示す*4。1990年代半ばにはまだ限定的だった写真集文化が2000年代以降に拡大する中で、彼は本を作品の副産物として扱わず、撮影方法の違い、時間の飛躍、意味の余白を成立させる主要な形式として使い続けた。

カラーと白黒、異なるカメラ、個人的スナップと抽象的な像を混ぜる外見だけを抜き出すと、エングストロームの仕事は簡単に「ラフな写真集」という様式へ縮んでしまう。American Suburb Xで語るように、写真は変化する周囲への個人的な反応を保つための言語であり、その反応を複数の撮影方法のまま保つことが方法になっている*3。写真集は人生を説明する結論を避け、断片が互いを変え続ける場所として機能する。

受賞後も続く、写真集という制作現場

2005年のDeutsche Börse Photography Prizeは《Trying to Dance》を候補作に選び、友人の肖像、室内、風景、カラーと荒れた白黒の混在そのものを本の推進力として評価した*19

Image Museumのフォトブック・ライブラリーは《Trying to Dance》を、風景、静物、自画像、スナップが日記的に交差する一冊として収蔵・紹介している。単写真の完成度より、異なる種類の像が一冊の時間を作る点が、この作品の受容でも繰り返し注目されてきた*20

2025年刊行の《Dimma Brume Mist》では、35年分・200冊を超えるバインダーのコンタクトシートとネガへ戻り、都市/田舎、静止/移動、自己/他者の対を新しいシークエンスへ編み直している*21

Photo Pocheの作家紹介も、農村と都市を、内省と衝動、安全と脆弱さ、自己と他者といった対立する感覚の比喩として扱う長期的な仕事と整理している*22

§ REL 関連する写真家・運動
Photographers
Movements / Contexts
  • 日記的写真 ― 私生活の断片を継続的に撮影する実践。
  • 写真集 ― 個々の写真より順序、余白、反復によって意味を作る媒体。
  • オートフィクション的写真 ― 事実の時系列から離れ、自己の経験を編集によって再構成する見方。
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§ SRC 出典