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PHOTOGRAPHERS/GÁBOR ŐSZ ·コンセプチュアルアート ·UPDATED 2026.08
GŐ
§ 166 — Photographer Index — コンセプチュアルアート

ガーボル・ウーズ

Gábor Ősz
Countryハンガリー Period1980–1990s Channelイメージを疑う · CONCEPTUAL
Abstract

ガーボル・ウーズは、カメラ・オブスクラ、長時間露光、映像を用い、建築と光から「像がどう成立するか」を探るハンガリー出身の作家。大西洋岸の戦争遺構を撮影装置にした《Liquid Horizon》、ナチ期の建築を扱う《Das Fenster》、旧ユーゴスラヴィアの記念碑を参照する《Spomen》などで、風景、歴史、光学装置の関係を検証してきた。

この写真家が変えたこと

従来の建築・風景写真では、写真家が建物の外から撮影位置と画角を決める。ウーズはその順序を逆にし、建物内部をカメラにした。《Liquid Horizon》では大西洋岸の観察用バンカーの開口部、《The Prora Project》では客室の窓、《Das Fenster》ではベルクホーフの巨大窓が、そのまま像の範囲と方向を決める。建物の外観を記録する代わりに、軍事、観光、政治のためにあらかじめ設計された「見る位置」を写真として残した。

Keywords カメラ・オブスクラ Liquid Horizon Atlantic Wall Camera Architectura Das Fenster Spomen
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 04 背景と時代

絵画から、光が像を作る過程へ

ウーズは1962年にハンガリーのドゥナウーイヴァーロシュに生まれ、ブダペストで絵画を学んだ後、オランダを拠点に制作してきた。初期にはモノクローム絵画に取り組んだが、絵具の層よりも、光が支持体へ像を形成する過程へ関心が移り、写真・映像・投影を横断するようになった*1。本人はインタビューで、絵画という媒体が次第に扱いにくくなり、写真を通して別の素材へ関心が広がったと説明している*2

2010年のインタビューでウーズは、学生時代には絵画から出発しながら、1989年頃から写真へ移った理由を、決定的瞬間を素早くつかむことより、光が物質へ像を形成する過程そのものへの関心として説明している。海辺の空間感覚を通常のカメラで撮っても自分の経験に届かないと感じたことが、《Liquid Horizon》のカメラ・オブスクラへ向かう直接の契機になった。 *21

ウーズが写真へ移った1989年前後から、制作は静止画だけでなく、カメラ・オブスクラ、映像、投影、建築空間そのものを像が生まれる条件として扱う方向へ進んだ。NW Aalstはウーズの仕事を、現実の観察、人間と空間の関係、像が生まれ知覚される瞬間への反省として整理している*3。Ludwig Museumの回顧展図録も、彼の制作を「正確な現実描写」という写真の古い期待そのものを問い直し、技術、光、知覚、カメラの基本機能を検討する仕事として位置づける*22

§ 02 / 04 表現の核心

《Liquid Horizon》――観察用バンカーそのものをカメラにする

《Liquid Horizon》は1990年代末から2000年代初頭に展開されたシリーズで、大西洋岸に残る第二次世界大戦期のドイツ軍防衛線「大西洋の壁」の観察用バンカーを暗室化した。海へ向いた開口部から入る光を内部の感光面へ長時間露光し、建築そのものをカメラとして使う*4

Kunstmuseum Den Haagが所蔵する《Liquid Horizon N°8, Fécamp》は、2000年制作のカメラ・オブスクラによるCプリントとして記録されている*23。静かな水平線の範囲は、フェカンのバンカーにあった観察用開口部、壁の奥行き、海へ向いた建築の方向によって決まる。

長時間露光では、海、水平線、コンクリートの輪郭のように持続するものが残り、通行人や一時的な動きは像から薄れる。Ludwig Museumは、この写真について、過去の出来事の図解よりも、過去の装置を通して現在を経験する構造に重点を置いている*5戦争遺構を外から眺める構図ではなく、遺構の内部に設けられた視点そのものが写真の位置になる。

Camera Architectura――建築を巨大な眼へ変える

《The Prora Project》では、ナチ期の巨大保養施設プローラの反復する客室をカメラ・オブスクラとして使い、窓ごとに分割された外界を一枚の像へ集めた*6。《Travelling Landscapes》では列車、《Permanent Daylight》ではキャラバンがカメラとなり、固定された箱としてのカメラを移動体や生活空間へ拡張した*7

《Permanent Daylight》が写すのは、アムステルダム近郊で夜間照明により植物の成長を促す温室である。夜を昼へ変える農業技術と、夜を何晩もかけて像へ変える露光が重なり、人工光が生産と写真の双方を支えることが示される*8。ここでは風景の美しさより、光を管理する制度と装置が主題になる。

像の自己参照――《Colours of Black and White》と《Blow-Up》

ウーズはカメラ・オブスクラに加え、カラーと白黒、ネガとポジ、投影とスクリーンの関係も反転させてきた。《Colours of Black and White》は、色で塗られた実景を白黒ネガで撮ることで、色彩が灰色の階調へ変換される規則を可視化する*9

《Blow-Up》では、写真や映画の像を拡大するほど、元の場面の細部が明確になるのではなく、粒子と不確実性が目立ってくる。CNAPはこの作品群を、像の内部へ侵入して未知や不可視へ接近する比喩として説明している*10。ウーズは「拡大すれば現実の情報を回収できる」という期待を、画像そのものの粗さが限界を示す作品へ変えている。

《Das Fenster》――独裁者の窓が風景を演出する

《Das Fenster》は、ヒトラーの山荘ベルクホーフに設けられた巨大なパノラマ窓を扱う。建物自体は失われているため、ウーズは資料、写真、映画、寸法をたどり、窓がアルプスの眺望を一枚の政治的イメージへ枠づけた仕組みを映像として再構成した*11

Van der Grinten Galleryは、ベルクホーフの高さ4メートルの窓がウンタースベルクの眺望を巨大な一枚の画面として枠づけ、その山が神話的・歴史的意味を帯びた場所だったと説明している*24。Ludwig Museumの回顧展も、《Das Fenster》を建築、知覚、光、時間の関係を検討する〈Camera Architectura〉の一作として位置づけている*12

Van der Grinten Galleryの《Das Fenster》解説は、この系列を「Camera Architectura」と呼び、建築空間そのものが像の製造と知覚を条件づける点を強調する。ウーズは窓を、誰を室内の中心に置き、どの眺望を権力の背景にするかを決める具体的な光学装置として扱う。 *24

§ 03 / 04 代表作・方法・媒体

《Spomen》――記念碑の幾何学を撮影装置にする

《Spomen》では、旧ユーゴスラヴィア各地に建てられた抽象的な戦争記念碑「スポメニク」を調査し、その幾何形態に対応するカメラ・オブスクラを制作した。記念碑を正面撮影する代わりに、その形を撮影装置へ移し、英雄、犠牲、権力を表す抽象形態がどのような視界を作るかを問う*13

The Eye of Photographyは、同作が画像と幾何形態の関係だけでなく、抽象形態と英雄性・栄光・権力という概念の結びつきを検討すると紹介している*14。《Spomen》では記念碑の形をそのまま被写体として正面から示すのではなく、その幾何形態に対応させたカメラ・オブスクラを通して周囲の景観を写す。記念碑の造形が、撮影時の開口部と画角へ置き換えられる。

一点物の直接像と、展示空間

ウーズの大判作品には、建築内部に感光材料を設置し、長時間露光して得た一点物が多い。Fondation Francèsが所蔵する《The Liquid Horizon》は、露光時間、カメラ・オブスクラ、支持体の情報を含めて公開され、作品が撮影された風景だけでなく装置と時間の記録でもあることを示す*15

写真、映像、投影、暗室化された展示室を組み合わせるため、作品は印刷画像だけでは完結しない。1000 Wordsの展評は、ウーズがカメラやプロジェクターを前景化し、像を作る者と見る者の働きを、場所に応じて再配分すると論じている*16

§ 04 / 04 批評と写真史上の位置

風景写真と装置批評の交点

〈Camera Architectura〉では、カメラ・オブスクラの古い原理を再現することより、既存建築の窓や開口部をそのまま撮影条件として使う。Paris-artは、ウーズが建物、温室、室内など、外界を窓・穴・ガラス越しに見る空間を撮影装置へ変えると説明している*17。《Liquid Horizon》の観察窓、《Das Fenster》の巨大窓、プローラの客室窓は、それぞれ軍事的観察、政治的演出、集団観光のために方向づけられた開口部であり、その方向が作品の画角に残る*24

〈Camera Architectura〉では、既存建築が本来持っていた用途を撮影条件から消さない。《Liquid Horizon》では観察用バンカーの海へ向いた開口部、《Prora》では反復する客室窓、《Das Fenster》ではベルクホーフの巨大窓が画角を決める。Light Art Museumは、ウーズのカメラ・オブスクラを、光が被写体であると同時に像を可視化する光源にもなる循環的な装置として説明している*18

撮影位置は、建築と写真家のあいだで決まる

モノクローム絵画から始まった制作は、画面、支持体、投影、観察位置を一つの系として扱う方向へ進んだ。Fotóművészetは、Camera Architecturaを《Liquid Horizon》《Prora》《Das Fenster》と、移動型の《Travelling Landscapes》《Permanent Daylight》《Constructed View》が対応する体系として整理している*19

《Liquid Horizon》でバンカーを選ぶ意味は、暗箱に向いた形だったからだけではない。開口部は建設時から海へ向けられており、ウーズはその方向を変えずに感光面を置く。Mois de la Photoも、バンカーを海へ向けられたカメラとして紹介している*20。現在の海景は、作家が自由に見つけた構図ではなく、軍事施設が観察のために固定していた方向を通して写る。

開口部が、過去の視線を現在の画角へ引き継ぐ

《Liquid Horizon》の観察用開口部、《Das Fenster》の巨大窓、《Spomen》で参照される記念碑の形は、もともと別々の歴史的用途に合わせて人の位置と視線を方向づけていた。ウーズはそこへ感光面や投影を組み込み、既存の形を現在のフレームとして使う。過去の出来事を再現するより、過去に設計された「どこから何を見るか」という条件を、現在の像の範囲として残す方法である。

長時間露光では、露光中に通過した人や一時的な動きが薄れ、バンカー、水平線、人工照明のように持続した要素が残る。《Liquid Horizon》では、海を継続的に観察するための固定された建築と、長時間の光を一枚へ蓄積する露光が同じ開口部で重なる*5。建築の用途と露光時間の組み合わせが、このシリーズ固有の海景を作っている。

§ REL 関連する写真家・運動
Photographers
  • ヴェラ・ルッター ― 建築空間をカメラ・オブスクラへ変える同時代の比較対象。ウーズでは建物の歴史的用途がより強く残る。
  • タシタ・ディーン ― 写真と映画の時間、消滅する建築や場所を扱う点で接続する。
  • メディア考古学 ― 古い光学装置を復元するだけでなく、見ることを支える制度と技術の履歴を読む方法。
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