アグライア・コンラートは、北京、カイロ、サンパウロ、東京などの建築と都市変化を35mmで撮影し、写真集、複写、シルクスクリーン、壁面インスタレーションへ展開してきた。《Iconocity》《Japan Works》《Umbau》を手がかりに、移動しながら蓄積した都市像が、近代建築、非公式な増築、交通、採石とどのように結びつくかを読む。
コンラートは、建築写真の基本単位を、一棟を説明する完成画像から、撮影後も本、壁、窓、映像の中で配列と尺度を変える画像群へ広げた。世界各地で蓄積した35mm写真は、高層住宅、路上の増築、交通インフラ、採石された石、完成後の建築を隣接させ、近代化が場所ごとに異なる速度と資源条件で進むことを比較可能にする。複写の粗さ、巨大化した網点、窓を透過する像、展示室を歩く鑑賞者の経路も作品の構造へ入る。建築を写した写真が会場の壁面や通路へ物理的に作用し、都市を分類する視点と、展示空間が画像の意味を作る仕組みを同じ制作工程で扱った。
山村からウィーンへ—映画と35mmで都市を見る
コンラートはザルツブルク近郊の小さな山村で育ち、19歳でウィーンへ移った。昼に働き、夜は映画館へ通い、スクリーンの中で建物、道路、人の流れが切り替わる感覚を都市を見る訓練にしたと後年の批評は論じている。*1 田園から大都市へ移った経験は、建築を完成した物体として眺めるより、移動する身体の前で断片的に現れる環境として捉える出発点になった。1990年代にヤン・ファン・エイク・アカデミーで研究を進める頃には、北京、カイロ、サンパウロなどを横断し、近代建築が異なる社会、経済、地形の中で使われ、増築され、周辺の交通へ組み込まれる過程を撮る方法へ発展していた。*2
本人はアナログ35mmを選ぶ理由として、軽さ、経済性、物質性、撮影の自由を挙げている。*3 小型カメラは、車中、路上、建物内部を行き来しながら、著名建築の正面と同じ注意で増築、看板、工事、周辺設備を拾える。撮影時に一枚の完成像を決めるより、多数のネガを持ち帰り、展示と出版のたびに複写、拡大、配列し直す工程が重視された。移動しながら集めることと、後から都市同士を比較することを一つの方法にできる点が、35mm写真を選ぶ必然性になった。
1990年代の都市拡大と建築の使用後
1990年代以降のグローバル都市では、高層住宅、交通網、再開発、非公式な増築が同時に進んだ。コンラートは完成直後の建築だけを選ばず、汚れ、改修、植生、仮設物、周辺道路を含めて撮影した。同じ設計思想を持つ建物でも、北京、カイロ、サンパウロでは、素材の調達、人口移動、気候、規制によって使用後の姿が異なる。建物を設計者の完成作品として固定する視点へ、資源の採取、施工、利用、変形の時間を加えることが、都市を横断して撮り続ける理由になった。 *4 *5
再編集されるアーカイブと展示空間
コンラートのアーカイブは、撮影地と年代を検索する保管庫に加え、展覧会ごとに関係を作り直す制作資源として働く。異なる都市、時代、縮尺の写真を隣接させるため、個々の意味は前後の画像、高さ、大きさ、会場の動線によって更新される。写真集《Elasticity》も、個人アーカイブを独自のリズムで「本の中へ設置する」視覚的エッセイとして構成された。*6 分類より再配置が、都市の構造を読む手順になる。
コンラートは画像を窓へ貼り、壁一面へ拡大し、角をまたがせ、映像と印刷物を近接させる。本人は、建築を扱う画像を展覧会場の物質的、形式的な寸法へ応答させたいと説明している。*3 入口付近の巨大な写真、視線を反射するガラス、近づくと網点へ崩れるコピーが、鑑賞者の歩行経路を具体的に変える。展示空間は画像の意味と身体的な見え方を作る制作現場になる。
採石場と近代建築を資源の連鎖で見る
採石場のシリーズでは、建築の完成形から離れ、石材が切り出される地質と労働の現場へ向かう。Secessionの《Autofictions in Stone》は、石、採掘、移動、建築の物語を写真と空間構成で結ぶ。*7 近代建築を美しい形式として鑑賞するとき、その材料がどこから来たかは見えにくい。コンラートは都市のファサードと採石場の断面を同じアーカイブで結び、建築を文化的な記号だけでなく、地面を切り、運び、積み上げる資源の過程として読む。
複写と拡大が建築像の流通を表面化する
コンラートはネガからのプリントに加え、コピー機、シルクスクリーン、粗い拡大、壁紙状の印刷を使う。複写を重ねると階調と細部が失われ、建築は情報量の多い記録から、壁を占める粒子と輪郭へ変わる。FOMUの《Umbau》では、同じ画像が柱、通路、巨大な壁面に応じて尺度を変え、近くでは網点へ崩れ、離れると再び建物として読める。*8 粗い表面によって、建築が雑誌、広告、設計資料を通じて何度も複製される文化的な流通が、展示室の視距離として経験される。
《Japan Works》—用途と使用痕をページで比較する
《Japan Works》には、住宅、学校、ホテル、寺院、高層建築、駅、橋、教室、階段、家具が、カラーと白黒、外観と室内を横断して収められる。*9 見開きは別の用途、年代、縮尺を接続し、著名建築と日常的な設備を同じページのリズムで見せる。読者は設計者ごとの様式とともに、建物が使われ、改修され、周囲の交通や植生へ接続される状態を追う。IACKの書評が述べるように、本の綴じと見開きは、持ち運べる小型の展示壁として働く。*10 異質な建物と使用痕を並べる編集が、場所の差を残したまま比較を可能にし、写真集をアーカイブへ新しい隣接関係を与える第二の現場にする。
《Umbau》— 展示を「改築」として考える
FOMUの《Umbau》は、長期アーカイブを回顧しながら、作品を年代順へ固定せず、会場を改築するように再配置した展覧会である。*8 題名の「改築」は、都市や建物の変形を撮った内容と、画像の大きさや位置を会場ごとに作り替える形式を結ぶ。大判プリント、連続する小画面、書籍、映像、複写物が異なる速度で目に入るため、観客は一つの都市解説を順に読むより、歩きながら画像同士の比較を組み立てる。
写真集では、ページをめくる時間、見開きの接続、紙の質、画像の反復が、壁面とは別の都市移動を作る。Gleanの批評は、書籍、都市、アーカイブ、空間的思考が作品の中心であることを詳しく論じている。*1 展覧会が会場ごとに配置を変えるのと同じように、本も画像の順序を設計し直す小さな建築として扱われる。
初期の都市調査では白黒写真が多く、後年はカラーも積極的に使う。Glean/HARTの《Umbau》評は、色が建物の素材、看板、植生、仮設物を別のリズムで結び、従来のアーカイブ像を変えると指摘する。*11 展示では古い白黒ネガと新しいカラー画像が隣り合い、都市の年代順より、現在の編集によって生まれる関係が前景化する。
建築写真の代表視点へ複数の観察位置を加える
建築写真はしばしば、水平と垂直を整え、設計意図が最も明快に見える位置から一棟を要約する。コンラートの画面には、窓からはみ出す物、後付けの看板、路上の車、増築部、別の建物の影が入り、次の写真では同じ都市の別地点へ視点が飛ぶ。De Witte Raafの《Iconocity》評も、都市条件と展示方法を同時に読む必要を論じている。*12 一棟の代表像に収束させず、移動中に集めた断片と、後から並べ直した順序の双方を都市の知識にした。
都市調査から展示設計までを一つの工程にする
現地での移動、アーカイブ化、複写、拡大、写真集の編集、会場での配置が一つの制作工程を形成する。《Umbau》という題名の「改築」は、建物を撮った画像を展示室に合わせて作り替える行為でもある。FOMUは、建築と都市過程を写真インスタレーションとして扱う実践を展覧会の中心課題とした。*8
著名建築家の作品を撮影する場合も、窓に貼られた物、増築、汚れ、車、周囲の建物を含め、完成後の使用が建築をどう変えるかを撮る。Museum für Gegenwartskunst Siegenの展覧会は、コンラートとアルミン・リンケを、建築と社会の複雑性を扱う作家として並べた。*5 建物は作者の意図を保存する対象であると同時に、多数の主体と制度が更新し続ける都市の一部として現れる。
比較から都市固有の差を読む
多数の都市を並べると、同じ形式の高層住宅や道路が反復して見える。その一方、コンラートの配列は地形、素材、増築、使われ方の差も残す。2021年刊行の《Japan Works》は、異なる建物種と内部空間を混在させ、日本の建築を複数の用途と時間から見せた。*13 比較は共通項を確定する結論より、似ている画像の間に残る制度と生活の差を検討する手順として働く。
2023年の《WHAT MAD PURSUIT》は、コンラート、アルミン・リンケ、バス・プリンセンを並べ、写真が現実を記録すると同時に変形し、展示空間の壁面や動線へ身体を持つという論点から再検討した。*14*15 《Elasticity》では個人アーカイブが本の順序と展示の反復によって再構成され、《Autofictions in Stone》では採石、石材、建築を結ぶ写真が会場の表面へ展開された。*16*17*20
Camera Austria賞の選考理由は、世界各地の都市調査から生まれたアーカイブを、記録だけでなく都市を分析し歴史化する知識の装置として評価している。1990年代初頭から大都市のインフラと自発的な増築を撮り続けた経歴を含めると、コンラートの写真は建物の図解より、都市が社会によって更新される時間を集積する方法として位置づけられる。*18*19
- ベルント&ヒラ・ベッヒャー ― 建築物を反復撮影し、比較可能な写真アーカイブを作った先行例。
- アンドレアス・グルスキー ― 都市と建築を大判写真で総合的な構造として示した。
- ルイーザ・ランブリ ― 建築を内部の光と部分的な視点から扱う対照的な実践。
- 畠山直哉 ― 採石場、都市、資源の連鎖を日本の写真から扱う。
- 建築写真 ― 建物の記述に加え、計画、使用、資源、空間経験を扱う写真。
- コンセプチュアル写真 ― 撮影対象だけでなく、分類、展示、複写、媒体の制度を作品化する。
- 写真インスタレーション ― 写真を壁面、床、窓、映像と組み合わせ、空間内の経験として構成する。
- Contemporary Art Library - Aglaia Konrad archive
- CCA - Aglaia Konrad collection record
- WorldCat - Aglaia Konrad bibliography
- NDL Search - アグライア・コンラート
- Museum für Gegenwartskunst Siegen — Aglaia Konrad, Armin Linke: concrete & samples ↗
- Nadja Vilenne — Aglaia Konrad ↗
- USI Academy of Architecture — WHAT MAD PURSUIT: Aglaia Konrad, Armin Linke, Bas Princen ↗